気持ち悪い絵


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ブロンズィーノ作 「愛の勝利の寓意」1540-45/ロンドン・ナショナル・ギャラリー

この作品を今年最初のブログに取り上げます。
一見しての感想は、「何がなんだかわからない。でも気味が悪い。」です。
何がなんだかわからない。というのはこんなところ。リンゴをもった美女は神話にでてくる美人コンテストに勝ったヴィーナス。彼女はいつもトレードマークとして小さい子を引き連れているのだが、左の子はすでに思春期の少年、しかも母親の口にキスして、なんと母親は舌をからめてる。

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この親子、近親相姦。だいたいこんなこと絵画にしていいのですか?代のイタリアってすごい。われらが春画どころではない。トスカーナ大公がフランス国王に送った絵だというから、後にダヴィンチを招待したほどのイタリア芸術好きのフランソワ1世、かなりの趣味人です。ヨーロッパの王族って凄いと思うのだがひどい不細工のままのポートレートをベラスケスに描かせスペイン王など、芸術に対して大変寛容なことだ。

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右の子供は行けー行けーとばかり花びらを振りまく準備。その背後にはきれいだが無表情の娘が蜂蜜を差し出しているが、よくみると娘の半身は蛇とライオン、左右の手は逆さまに描かれている。危険な匂い満載の少女。これは妖怪?悪の化身だろうか。
上にのしかかるように描かれているおじいさんは砂時計をしょっている。色即是空。というのかどうせ命は短いから好きなことやっちゃえ。というのか。
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左端には嘆く老婆、キューピッドと言うには思春期の少年が腰をくねらせ、どう見ても頭とつじつまの合わない体勢。

左の上の端にやっと登場する常識人の横顔。しかし無表情でまさに仮面をつけているようだ。常識は仮面でしかないよ。と言う意味か。

これだけ空間にいろんな人物が様々な感情を詰め込んでいるのだが、全体として実に後味悪いと言うか悪趣味。そして500年間も大事にされていまもロンドンのナショナルギャラリーで異彩を放ち続けている。人は悪趣味が好きなのです。芸術はけっしてきれいなもんばかりではない。ということを5世紀前から皆知っていたのです。

なんだか非道徳的なことが堂々と行われている。人の道に外れたことが堂々とまかりとおる。このところ私がずっと感じている気持ち悪さ。居心地の悪さ。胸がムカムカする感じをこの絵が寓意している気がして。
頃のトスカーナとフランスがもしかしたら、今の世界のように不透明だったのかもしれない。絵画は馬鹿ではない。というか鋭い、絵描きがきれいな風景を描いて満足していた、と思ったら大間違い。絵画は人間の内面までスキャンして表す、そして今でも新しい。

脳に刺激を与えるようなアートを今年もギャラリーで紹介していくつもりである。芸術家と言う仕事は人に頼まれるでもなく、自分とのたゆみない問いかけの中で長いプロセスを通して生まれてくる上に市場では売れない、売れる人は馬鹿みたいに売れる。でも99,9%の人は売れない。お金との絡みが難しい、誤解されやすい。大変面倒な職業である。しかし世の中にはなくてはならない。特に今の世界では。

余談だが市民講座で私にこの絵の解説をした美術史の教授レスリー・プリモさんは小学生の時学校の課外授業でこの絵をみてショックを受け以来ずーっと気になっていて後年美術史の専門家になる決心をしたそう。
絵画は人生を変える。

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