暴力に会いに旅に出る
5月31日、2回目のギャラリートーク、大塚咲さんをゲストにヴィデオ映画「AKA ANA」の紹介をした時、会場からの質問で、
「どうやってこれらの難しい状況に置かれた女性たちの親密な姿をとらえることができるのですか?」
という質問にダガタは
「時にはゆっくり彼女たちの話を聞いてあげるというだけで良いときもある。普通の客はそんなことに興味を示さないから。時にはこちらに試練を課してくることもある。」
「試練とは?」と私。
「同じドラッグを採れ、とかコンドームなしのセックスを要求することです。」
これには言葉を失った。
写真に写された明らかにエイズやありとあらゆる病魔に冒されたようなやせ衰えたカンボジアの女性たちにそんなこと言われて受けて立つ男性は彼以外にはいないのではないだろうか? それとも自殺願望者かマゾヒストか。C型肝炎にやられていることは彼から聞いたがその他にも彼の体は、そして心も虫ばまれているのではないだろうか。だからますます表現が先鋭化しているのではないか? と気になった。
性は僕のミッションだ
それから幾日か過ぎた晩、私の自宅に滞在しているダガタと庭でお茶を飲んでいた。深夜なのに異常に空が明るく、歌舞伎町のネオンが空に反射しているのかな。と思わせる不思議な空だった。(我が家は新宿御苑の隣)
彼の仕事も人生もあまりに私とかけ離れていて、暇さえあれば質問攻めにする私にいちいち丁寧に答えてくれるダガタである。彼がどうして好きになった女性の面倒を見ないでいつも旅に出てしまうのか、子供までつくっても何故一緒にいてあげないのか? などと聞いていたらダガタがこう言った。
「この前のトークのときに僕がセックスが好きなんじゃない。といったらアツコは嘘だろうと言ったよね。あれは本当なんだ。」
「好きじゃなくてあれだけテーマにしないでしょうが」と私。
「いや、本当に、僕にとってのセックスはミッションなんだ。」
ミッション、というと使命、天命、キリスト教の伝道の意味がある。我が身の危険を顧みず使命を全うしようとする者たちだ。
「使命? あなたは伝道師なのね? イエズス会のセックス部門って感じかしら?」
「そうだね、ただし、ローマ法王がそれを認めてくれるかわからないけどね、でも本当なんだ。」
答えが出ないんだ、という答え
また一つ私に中には疑問符が残った。彼の言動は素晴らしくシャープでロジックでありながらテーマ自身が根本的にイロジックである。快適な社会を作るために作り出されてきた不適合者達の群れ、民主主義=多数決という社会の少数派への暴力、性に依って人生を破壊されながら性に依って自由の瞬間を得る娼婦たち。
トークの最後に彼は言った。
「問題は、私は命は芸術より大切だ。と言いたいのですが、それを言うためには芸術に頼るしかないのです。」
私は「人生を懸けた芸術」などというのはヴァン・ゴッホで終わった神話かと思っていた。芸術家だって右手に絵筆、左手に計算機を持っていないといけないんだ、そんな世の中なんだよ。といつのまにか自分で納得していた。それが悪い訳じゃない。どんなに芸術で生きていくのが大変だか知っている。
でも人生を懸けた芸術がなんと力強いものであるか、私たちはここに見せつけられた。
かならずあなたの夢に出てくるから
この展覧会を見に来る人は皆、無傷では帰れない。心の底に堆積していたものが浮かび上がって夜も昼もあなたを揺り動かす。心地よくもない、癒しなど全くない。回答もない。幼児の頃から呑み込んできた無数の不本意な思いが記憶の底から浮かび上がりあなたに問いかけるのである。
揺り動かされるとはこういうことだったのか?
多くの人に見てほしくて会期を延長しました。
7月6日(日)18:00まで。
日本でこれだけ大規模な展示が見られるのはまずないのでぜひお見逃しないように。
6月26日は、彼は日本を離れる前日で、最後のトークをします。
2014/6/26(木)
アントワーヌ・ダガタ トーク・イベント
17:00~18:00 「AKA ANA」上映
19:00~20:00 トーク
20:00~21:00 写真集販売・サイン会
※「AKA ANA」の上映時間が通常と変わります。
¥1500(1drink付)
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