世界の音楽産業を依然としてリードするアメリカ。ミュージシャンたちがスターをめざしてやってくるこの町ではライブハウスはあらゆるレベルの才能がしのぎを削る戦場(それほどでもないけど)、のようなものです。
行ってみたのが Zinc Bar。
NYでも音が良い、良心的なライブハウスという評判です。大きさは我々のサラヴァと同じくらい。入り口に巨大な黒人の男性がいて、ミュージックチャージをまず、手渡します。(10ドルでした。安い!)しかし驚いたことには、一晩に3セットあります。まず6時から7時がその日はオープンマイクで、アマチュアや駆け出しの若い連中がチャージなしで演奏します。1時間の演奏で、そのあとお客さんはおしゃべりしたり飲んだりしながら、なんとなくはけていきます、一方店は次のセットのお客さんを10ドルづつ取って入れていきます。店にはガンガンCDが鳴り響いているのですが、その中で、次のバンドはサウンドチェックをしてゆきます。音をちょいと鳴らすくらいしかできません。お客さんもどんどん入ってゆきます。楽屋もありません。ミュージシャンは次々ステージに乗って、飲んだり、サンドイッチを食べながらチェックをしてゆきます。それで30分ほど遅れてライブが始まりました。当然音のバランスはきびしいものがありました。しかしこれでも音は良心的なほうだというのですから他はかなりひどいのでしょう。それで1セット終わると客がはけて行って、また1時間するとその同じバンドが演奏しました。
その日ステージにいたのは6人のミュージシャン、みなかなり成熟したアフリカンミュージシャン(1人はカナダ人)40代後半というところでしょうか。1回のステージにお客は20人ほどいましたから200ドル、2回のステージでも400ドル、そのうち何%が彼らに戻るのか、100%戻ったとしても1人当たり70ドルに足りないくらい。つまり5000円くらい、多分50%チャージバックでしょうから2500円、というところでしょうか。お金も、仕事のコンディションもきついです。しかし、それでも世界中から集まってくるのは、やはりNYにいると世界中にツアーできる可能性があるということなのです。
以前フランスのサラヴァレコードで参加していたJ.C.Maillardはとても優秀なギタリストですが、10年ほど前にNYに引っ越しました。彼曰く、フランスでは何年頑張ったってフランス国内のオファーしか来ないけれど、NYに来てはじめてドイツからオファーが来た。フランスの隣の国なのに、フランスにいたらオファーが来ないのだ。アメリカに来ないと世界の音楽市場の中に入れないのだ。ということで彼は今や日本にも毎年のように招待されています。
ライブハウスの側から見るとどうでしょう。日本では1晩に3セット、お客の入るバンドを組めるでしょうか?かなり難しいと思います。しかしアメリカには学生やアマチュアバンドが無数にあり、みんなこういう場所でたくさん演奏してうまくなろうとしているし、ついてくる友人たちや家族、ファンがいるから店がいっぱいになります。プロのバンドにしてもチャージが安いので、ちょっと1杯飲みながら聞いてみるか。というふらっと入るお客さんがいるのです。やはり音楽人口が日本に比べて多いのではないでしょうか。
私たちライブハウスとしては、もっともっと気楽にお客さんに来ていただきたいともいますが、これまた、日本ではライブハウスに足を運ぶには20代から30代前半の人がほとんどなのです。美術館を訪れるのは女性がほとんどだし、いったい大人の(特に男性)の多くは文化を楽しむという娯楽からなぜ遠ざかってしまうのでしょうか?
これは、私たちの大きな課題です、どうしたら大人のライブハウスの楽しさを味わってもらうことができるか。
そして日本の若いミュージシャンたちにはぜひ一度外国に武者修行に出てほしいと思います。まったく文化の違う国でお客さんを魅了できるか、サウンドチェックもないような箱でも良い音が出せるか。そういうハードルを越えると骨太の音楽、日本の国境を超える音楽ができると思います。
サラヴァの夢として毎年、優秀なアーチストをツアーを組んで外国遠征を果たしたいと思います。日本にはこんなに個性のあるすごい音楽があるのですから世界に売り込みたいではありませんか。