2015年7月19日 更新

遅ればせ報告、アートバーゼル

IMG_3433.JPGアートバーゼル2015


初めて訪ねた。そして圧倒された。確かに展示法もセレクションも世界最高レベル。と言うかギャラリーと言う仕事がここまでの専門性が要求される仕事とは知らなかったから、自分はなんでまたこんな商売をおっぱじめてしまったのか、と目がくらむような気がした。ギャラリーもピンキリ、そのピンのピンを見せつけられた。

ホールの一階はもう超有名なギャラリーばかり、何が最高級かと言うと、過去に扱った作家がめちゃビッグになった事とか、それにはその作家を育て知り尽くして専門家になっている事。今回出してる作家の面白さでトップレベルだと言う事、それに見せ方のうまさ。もちろん売る為の見本市なのであれこれ数人の作家を出してる。当然それぞれ作品は違うし、ジャンルも違う、そこをなんと言ったらいいか、違和感を排除しながら違いを際立たせる、という逆説をやってのけるすごさ。テンションを高いままに全部見せきる。そんな不可能に近い事をやってのけている。すごいテクニックだ。お金持ちのギャラリーばかりだから展示面積も大きくてそれぞれが店のようだ。グループ展の難しさはそれぞれの作家の持っている世界が違うとバラバラ感がある。フェアーだからしょうがないよ、と思っていたがいやいやとんでもない。大きな面積と良い作品の相性があれば世界が作れるのだ。
ちなみに1階には日本からの出展はなく、2階に唯一スカイバスが遠藤利克の本物感あふれる良い作品を出していた。

まるで美術館の中にいるような著名な作家の大作が並んでいるわけだが、これにも流行というのがある。例えば私は1990年代よくフィアック(パリのアートフェアー)に行っていたが、当時はコンバスや、アレシェンスキーがよくでていた。ジャスパージョーンズとかもあったのだが、一頃流行ったダミアン・ハーストなども最近のアートフェアーではなぜか見えない。一昨年のヴェネチアで大ブレークしたアールブリュットなどは一点もない、現代アートのギャラリーはアールブリュットを扱わない、と言う一線があるのだろうか?

流行は作られ、忘れられ

現代アートと言えば、まさにそのとおりで見た中では古くても1950年代のデュビュフェの小作くらいだろうか、ほとんどは1980年代以降の作品だ。ミニマルアートのゴッドウエルやアグネス・マーチン、ジョン・バルデサーリがとても美しい大作を出していたし、アンディ・ウォーホールはいつでもどこでも人気ものでしっかりでていたし、後はニューペインティングのバスキア、ジュリアン・シュナーベル、マザーウエル。ド・クーニングはもちろん。この30年の西洋での流れが一望できるまれに見る機会であった、しかも流行と言うバイアスがかかっているから面白い。流行と言うのは多分この1年で世界のどこかで大きな回顧展があったり、ビッグイベントに登場したり、と言うことではないのであろうか。その点、音楽と同じ、CDを出すとツアーができて、ラジオでヘビーローテーションでかけてもらえる。みたいな事だろう。買う方だってこういう物はいくら高くてもやはり雰囲気で買うものだと思う。

コレクターにもいろいろいて、ある作家やある時代にしぼって体系に従い計画的に買い集めて行くタイプ。あるいは気に入ったから、とか値段があがりそうだから、とかこれを家にかけたら見栄がはれるとかの理由で買う人。あるいは、まだある体系的に買いながらも常に新しい作家にアンテナを張っているアートアディクト。一般公開の前にVIPの内覧会があるのだがそのときに中国人が沢山来ていたと言う。ある種のアート作品は地域通貨みたいな物で、しかも換金できちゃう。はっきり言ってマネーロンダリングに使われると言うけれど今ほど銀行や税務署の監視が厳しい時代にそんな事があるのかよく分からない。ジェフ・クーンズの巨大なピンク色のネコちゃんが600万ユーロで売れた(8億円くらい?)という。でもどう見ても薬屋さんの前にあるさとちゃん人形みたいな物体である。もし私の亭主が買って来て、「ほらラブリーだろう、ネコ好きの君が喜ぶだろうと思って。」とか言ったら半年くらい口きかないと思う。まあそういう事はありえないけど。物質文明の愚かさを表現している、と言うことかもしれないが、それに大金をはたく事の意味は多分、ない。
Jeff-Koons-Whitney-Museum-5.jpgこれが600万ユーロかあ〜


絵は自分の中にある美しさを見せてくれる鏡

投資や見栄目的の人は除いて、作品に惚れて買ってしまう人の一員として思うのだが、私の経験から話せば、ひとめぼれで見知らぬ作家の作品を買い集め、例えば10枚集まったところで全部を一度に会してみて見ると何か共通点に気がつく、それが何であるかを確かめる為にまた次の絵に出会いに行く。それはまるで自分を捜しに行くのと同じプロセスな気がする。絵は自分を映す鏡、鏡の中に写る姿が一様ではない。優れた絵画は美しい姿を映してくれるから不思議だ。自分の中に気高さや崇高さを見つけ出してくれるのだ。
かといって欲しい絵がすべて買える訳ではないから、写真や雑誌を切り抜いてバーチャルコレクションを作っていた事がある。ある程度は面白い、しかしやはり、お財布を痛めて得た作品は多くを語ってくれるのだ、これは授業料である。ライブだってチケット買って行くのと楽屋口に耳をつけて聞くのでは感動が違うではないか。

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実はここからが本題 

なるほど本会場にはびっくりさせられたが、私は何億円もするような絵を売り買いしたくない、というか既に有名な絵を扱うのは私の役目ではないと思う。発見と橋渡しに私の本命がある。そこで実はもっと圧倒されたのがリスト展だった。

初見感あふれるリスト会場

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旧ビール工場の面白い空間で開かれるリスト会場


アートバーゼルは本館の超有名=高値、以外に同時開催でリスト、とスコープと言う値段の優しい作品を集めた会場がある。そのうちリストは今年で20回と言う、若手作家(40歳まで)を集めた会場だが、なになに、それでもとんでもないレベルである。10万から500万円くらいの値段帯。かっこいい煙突が目印の昔のビール工場が会場で複雑な階段や外側に張られた渡り廊下、階段が古いレンガの建物がエッジをきかせている。

実はこの会場が一番エキサイティングで、世界レベルを見せつけられた。なぜなら、リストは老舗ではなくて我々のような若いギャラリーの集合体だから。しかし、ここに展示された作品はすべて他では見た事がない、と言う初見感にあふれていた。どうやってこんな斬新な作家を確保できるのか。
Will Benedict

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実は縦です、すみません

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Will Benedict 作。やんちゃ感あふれる作家を発見。絵の周りにいる人たちの写真も作品の一部です。

その初見感がコレクターの食欲を刺激したのか、土曜日に行ったら既にほとんどが売れていたから驚きだ。先月行ったセルビアから良いギャラリーが来ていた。主催者から招待されたそうだ、(そういうところも良い、お金持ちではない周辺の国々のギャラリーも誘ってあげるのは)本当に若い初々しいアーチストたちが 一所懸命説明してくれた。頑張れ僻地。頑張れ日本と言いたいが日本の画廊は1件だけ青山目黒さんが素晴らしい作家、森田浩彰を紹介していた。

Emily Mae Smith

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Emily Mae Smith ポップアートの進化系、あえてイラスト?と思わせるこの変さが私のツボでした。


キモいだけではないMax Hooper Schneider

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生きたナメクジが泳ぐ液体の中に何とも気味悪ポップな人形、人をあっと言わせるあざとさで全部売りきったMax Hooper Schneider, というか既に売れっ子の実力は何ですが、ここまでやるか、という。

将来楽しみな大型作家 Anne Imhop

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Anne Imhopはかなりおすすめの女性作家、ヴィデオ、絵画、パフォーマンスにわたってとてもセンスがよく、新しい。

アルゼンチンも注目できる南米のヨーロッパ

http://deborahschamoni.com/artists/anne-imhof-2/

はるばるブエノスアイレスから来た画廊にはJose Vera Matos . 細かい字で自分の好きな本からの抜粋を書く作家が、アウトサイダーかと思わせるような、しかし違う。
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イスタンブールの謎の画廊

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これはイスタンブールからわざわざ来たギャラリーでも名前がNon と書いてあるだけで作家が誰だかも教えない不思議な人たちでした、サイトも閉められちゃっているし、謎・・・

反乱旗をはためかせたスコープ(SCOPE)

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異常に整然とした(言い換えれば窮屈な印象を免れない)バーゼルの町を外れ、工場や倉庫のあるライン川の河川、ほったらかし感、空き地感、不良のたまり場感のある、ヒッピーぽいエリアにある。いかにもアートマーケットくそくらえ、(でも買ってちょうだい)的な若い反逆者達の作品が並ぶ。
ここでは10万円くらいで買える面白い作品が世界中から来ているからこれもまた違って面白い。今回は韓国にスポットを当てた、と言う、韓国から多くのギャラリーが参加していた。その中で良かったのが2件、他の画廊は、ううん、ちょっとわざわざ来るレベルでもなかったような気がした。しかしうらやましいのは国家と韓国大企業がアートを国家戦略として本気でお金を投入している事だ。

scope.jpgのサムネイル画像
日本がやっているクールジャパンは全くピントのずれたイベントを開催して客の全く来ないひどい事になっているという。専門外の人が、他人の金=税金でイベントをやると残念な事になるのは必至である。アートだって同じことだ。国や企業がいつか日本のアートに投資すべきときがきたらいつ誰の背中をどこでどのように押せばいいのか分かる人を責任者に任命してほしいものだ。

結局私はベルリンのギャラリーでとても良い写真を購入。Nicole Ahlend 作、2500ユーロなり。静かな光と対話するようでもありミニマリストの絵画のようでもあり。また一つ授業料を払い、またひとつ私がきれいに見える鏡が増えた。

http://www.wichtendahl.de/ahland.html

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彼女の展覧会は今、ドイツ、ウイスバーデンの美術館で開催中。
http://museum-wiesbaden.de/zur-zeit-zu-sehen/nicole-ahland.html

潮田 バルー あつ子
アツコ・バルー
Atsuko Barouh

ラミュゼ主宰 / 通訳・翻訳家


ラミュゼ主宰。パリ第五大学人類学科卒業。フランスのインディレーベル『SARAVAH(サラヴァ)』の運営に1988年より関わる。2002年『L'amusée(ラミュゼ)』設立。滞在型イベントハウス『ラ・ケヤキ』(2003年)、ライブハウス『サラヴァ東京』(2011年)につづき、アートスペース『アツコバルー arts drinks talk』(2013年)をオープン。渋谷を拠点に文化の交流と発信に情熱を傾けています。

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