2015年1月 8日 更新

反権力と言うファンタジー

香港ではアンブレラが閉じられた
「香港では高校生達がまるで海辺にピクニックに行くような自然体で、中国政府の横暴に逆らって何ヶ月も主要道路にテントを張って生活していました。」で始まるエリックの写真展の紹介文を書き始めたら昨日、とんでもないニュースが飛び込んで来た。

フランスではテロ事件が
フランスの風刺マンガ雑誌、『Charlie Hebdo』(シャルリーエブド)がイスラム原理主義者のテロに会い編集会議中の12人が殺されてしまった。日本のマスコミではこの雑誌がどれだけすごい雑誌であるか、ちゃんと書いていない,故にかれら編集部のほぼ全員が射殺された事により失われた物の大きさも理解できていない。
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例えばこんな表紙『笑い死にしなかったらムチうち100回だよん』

広告なし、完全独立の雑誌
この雑誌は一人の漫画家によって1960年に始まり一切の広告収入なし、国の援助なし(フランスでは新聞雑誌社に国の援助金が払われる)で今まで何度にも渡る発売禁止処分,裁判、火炎瓶による放火などにもめげずに65年間続けて来た筋金入りの根性のある雑誌社なのだ。そして発行部数から言えば4万くらいで弱小、と言うレッテルを貼られてしまわれがちだが、影響力たるや大変なものなのだ。

シャルリーエブドは記事もあるが基本的にマンガ雑誌であり、シャルル・ドーミエが民主主義の黎明期、生まれたてのジャーナリズムとともに歩んで来た風刺マンガの伝統に乗っ取った由緒ある雑誌である。1960年、若い作家たちに発表の場を与える為にカバナと言う漫画家が創刊した。当時の名前は「ハラキリ」。風刺の毒が効きすぎてあっとう間に発売禁止命令が出たがそのたびに雑誌の名前を変えたり、まさにモグラたたきのように、手を変え品を変え、たたかれたもたたかれても彼等は雑誌を出して来た。思想のカテゴリーでいえば左翼であるが,実はあらゆる政治的思想にはとらわれないカウンターカルチャーの先鋒である為に、あるときは左翼から、ある時は右翼から、そしてこの数年はイスラム原理主義者達から攻撃されて来た。権力からは嫌われてるが一方,庶民からは圧倒的に指示されて来た。何しろマンガだから一瞬で何が言いたいか分かる面白さに加え、エッチなカリカチュアーもあれば、哲学者や経済政治学の一流の知識人達の書いた記事もある。まさにフランスの批評家スピリットの粋を集めた雑誌だ。


昨夜1月7日の晩に既に世界中の人々が「私の名はシャルリー」と書いた札を掲げた
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私が25年間もフランスに住んでいたのは美味しいマカロンやおしゃれな小物屋さんに行く為ではない。フランスにはシャルリーエブドをやっているような破天荒な連中がいるから、人の顔色を伺わないで言いたい事をずーっと言い続ける奴らにも市民権を与える国だからだ。

我が小さな国日本では好きな事を言っても良いが、市民権は与えてくれない、永遠に日陰者だ。18世紀にフランスではヴォルテールと言う人が「王様は神じゃない」。と言った。その思想が後に革命に育ち王はギロチンにかけられ、民主主義が始まった。日本では同じような事を言った吉田松陰は30歳で死刑になってしまった。生かしておけばヴォルテールになったのに。。。だから民主主義はまだ日本では育っていない。
では何故、フランスの王様はヴォルテールを死刑にしなかったのか?歴史の真実は分からないが、その点にこの国の底力があるように思う。シャルリーエブドはまさにその底力のシンボルなのだ。


民主主義の根幹をぶちこわされて今フランスは喪に服している。しかし明日からもう人種差別や宗教,政治による醜い争いが始まるだろう。皆、12人の死を肴に自分たちの権力を伸ばそう必死である。

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昨夜10時からフランス全土で10万人が集まりペンを手に掲げ、デモクラシーへの暴力を怒った


民主主義。と言うシステムは民が主のはずだが、実際には違う。彼等は鋭い突っ込みを、マンガというささやかで有効な手段で訴え続けて来た。そう、たかがマンガでしょう?何故皆殺しにならなきゃいけないんですか?

テロの起こったその晩自然発生的に人々は集まった、パリで、トゥルーズで、他の都市でも、ドイツでも、イタリアでもアメリカでも。。。日本では全くなかったが・・・

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反権力というファンタジー。権力は個人を蝕み生活や命さえ奪いにくる。では頭を縮めて生きて行くのが賢い行き方なのだろうか。パリの美大に通っている私の娘は週末に予定されている大規模なデモに参加する。という。行くべきだと思う反面、行かないでほしいと思う。人の集まる場所はテロに狙われている。警察は駅や空港、人の集まる場所に出かけるのをさけるようにたびたび呼びかけている。恐怖に屈するべきか、危険でもデモに行くべきか。私たちは常に試されている。


香港では?

香港の革命は公安の強制執行の前に終わった。
高校生達が始めた座り込み。香港出身の写真家エリックは「何かが起こっている」とカメラを持って香港に戻った。報道ではない写真家が感じて撮った香港の姿、そして中国の人々。それは日本で報道されるのとは全く違う生き生きした個人と民衆の姿だ、そして親愛なるお隣さんの素顔である。ヘイトメッセージなんて言っている暇があったらぜひこの写真展に来て見てほしい。同じ香港出身の映画監督リム・カーウエイの撮った写真も同時にスライドショーで見られる。

エリック-thumb-650xauto-1885.jpgのサムネイル画像

2015.01.31 Sat - 02.22 Sun
ERIC 写真展 「GOOD LUCK HONG KONG」
Eric Photo exhibition「GOOD LUCK HONG KONG」
渋谷松濤、アツコバルーにて

潮田 バルー あつ子
アツコ・バルー
Atsuko Barouh

ラミュゼ主宰 / 通訳・翻訳家


ラミュゼ主宰。パリ第五大学人類学科卒業。フランスのインディレーベル『SARAVAH(サラヴァ)』の運営に1988年より関わる。2002年『L'amusée(ラミュゼ)』設立。滞在型イベントハウス『ラ・ケヤキ』(2003年)、ライブハウス『サラヴァ東京』(2011年)につづき、アートスペース『アツコバルー arts drinks talk』(2013年)をオープン。渋谷を拠点に文化の交流と発信に情熱を傾けています。

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