2014年10月13日 更新

アールブリュットの力

アートの力を私は信じるけれど。それは個人のレベルである。社会のシステムはたぶん変わらない。と思う。でも人生を変えちゃう事はホント、あるんです。アートは個人的な営みであり、インパクトは個人の深いところにある何かに向かって行使される。そしてアートにやられちゃった人は理屈じゃないところが揺すぶられているから始末が悪い。人生が変わってしまう事もあるのだ。今日は個人を変えた話をしたい。

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アーツ千代田 3331で「ポコラート宣言」という公募展が行われている。
いわく:「純粋」で「切実」な行為や表現が「逸脱」した存在となった時、 私たちは、そこに「芸術」としか言いようのない美しさを感じる。 ポコラートは、障がいの有無・年齢・経験を問わず、その「芸術」を世界に解き放つ。(ポコラート宣言より)

そこで何人かの作家が私を動かしたのだが、特に驚かされたのが中道一輝の絵だ、よくアールブリュットの人たちは紙の隅から隙間なくぎっちり書き込んでいくのだがこの人はすっきり四角い紙のなかにおしゃれともいえる間のとりかたで対象物を描く。そのレイアウトがおしゃれ、などというケチな台詞では間に合わない不思議な何かを醸し出す。

ポコラートの事務所に連絡を取って、中道さんに会いたいと頼むと川崎市宮前区にある「社会福祉法人みのり会セルプ宮前こばと」を紹介してくれた。ここでは絵画のアトリエがあり数人の人たちがそれぞれパワフルな作品を作っている。中道さんは20代の男性でその日はかごに入ったブドウを一心不乱に描いていた。毎回先生が持ってきてくれるテーマを前に一瞬たり迷うことなくレイアウトなど考えずに、(たぶん彼の中にすでにあるのだろう)さっさと描く、そして2時間ほどで書き上げ、はい、できた。それで終わり、いつ筆をおくべきか、など悩んだりはしない。紙の上に心を解放するだけ、その潔さがストーンと直球で絵から飛び出して私たちのハートにストライクする。

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その日のテーマはかごに入ってぶどうだった

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一心不乱に描く中道さん

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彼は特に草花をとてもセンスよく描く    レイアウトの妙


「中道さんのファンでここで働き働き始めた人がいるのですよ。」と田代さんを紹介された。彼は美大を出て、就職したが自分に合わずにいたときに横浜市民ギャラリーあざみ野で開催されている「スーパーピュア展」でアールブリュットにであって衝撃を受けた。その後私が見に行ったと同じアーツ千代田 3331のポコラートに出ていた中道さんの絵(私が見たのと同じ絵)を見て訪ねてきたという。「美大で我々がやっていたアートなんてクソですよ、彼等の作品に比べたら」中道さんのアートはひとりの人生を変えてしまった、それだけの力がある。

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潮田 バルー あつ子
アツコ・バルー
Atsuko Barouh

ラミュゼ主宰 / 通訳・翻訳家


ラミュゼ主宰。パリ第五大学人類学科卒業。フランスのインディレーベル『SARAVAH(サラヴァ)』の運営に1988年より関わる。2002年『L'amusée(ラミュゼ)』設立。滞在型イベントハウス『ラ・ケヤキ』(2003年)、ライブハウス『サラヴァ東京』(2011年)につづき、アートスペース『アツコバルー arts drinks talk』(2013年)をオープン。渋谷を拠点に文化の交流と発信に情熱を傾けています。

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