2014年5月23日 更新

セットのアート

5月の大型連休にマルセイユとセットを訪ねた。セットは地中海の美しい港町、冬の人口は4万5千人、夏の人口は24万、という数字からもわかる有名な観光地。風光明媚、漁港では毎日新鮮な魚が水上げされる、名物は大ダコと牡蠣、野菜でもこの地方はフランスで一番早く有機農法をはじめたところで、ワインも野菜や果物、チーズ、パン、すべてが美味しい。

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甥っ子がこの町に家族で移住したので彼らの新居に泊めてもらうことにした。駅から出ると正面にもうヨットが停泊している水路がある。水路にしたがって海の方に15分ほど歩いていくと彼らのアパート。「一階は画家のアトリエなんだ」と説明している先に本人が出てきて招き入れてくれた、セットの人は人なつこい。マルク・デュランという名前の男性。 duran.jpgのサムネイル画像
Photo : Isabelle Templeこれはグーグルから取ってしまった画像
他にも絵が見られます

かなり素晴らしい絵なのにびっくり。世界を何年もかけてまわった後に大工として生活、1年半前から突然絵を描きだしたら画商に発見され、以来描くそばから売れてしまう、という。ジャンル分けには意味がないが、しいて言えばアールブリュット。スカイ、という人口皮革をキャンバスにしていっちん焼きみたいに盛り上がった点々で根気よく図柄を描いていく。色彩のセンスも面白い、まだ値段も高くないのでつい買ってしまいそうになる。いや買っておけば良かったかも。フーム、つい私の家の中の壁がもういっぱい、という理由でブレーキをかけてしまう。絵を買うのをためらってはいけない。と自責する。

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翌日は朝からミアムを訪ねる。

「質素なアートの国際美術館」というユニークな場所、それでも県立美術館である。年に2回企画展を行う。9月21日までCurro Gonzalesというアーチストがキューレーションする「セヴィリアのお祭り」展が開催されている。期待通りのぶっ飛んだ展示。グロテスクでセクシュアル、血と痙攣とヒステリー、群衆、狂気の渦巻きが全館、とぐろ巻きになっていた。

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ここでこの次の展覧会はなんと日本の雑誌、「ガロ」の歴史をたどる展覧会なのである。ガロに参加していた漫画家はもちろん、そのスピリットを引き継ぐ強者たちも参加する。

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昼は市場で牡蠣をあけてもらってワンバーで地酒の白ワインと食する、柔らかくゆでたタコはオリーブ油にマリネされて出てきた。

人口5万人にもいかないこの町にはもう一つの大きな美術館がある。海に向かってなおも進むと地方立現代アートセンター(県立と国立の間に地方立がある)略してCRAC

ここは昔は魚の巨大冷蔵庫だったという。建物は天井まで高さが10メートルもあるだろうか、気持ちのよい空間を提供する。方向性のしっかり決まっているチョイスでキューレータはどなたですか、と聞いたらここの館長です、と言って、なんと電話で呼び出してくれた。ノエル・テッシエさんは88年からここの前身となるサンクレールのアーチストレジデンスを立ち上げた人で、日本からは阿部公二、ヤナギミワ、アラーキーが参加している。初めてお会いした人と受付に寄りかかっての話だが、なんだか意気投合。「一緒になんかやりましょうよ」という雰囲気になったからうれしい。これからが楽しみ。

甥っ子からの電話がなかったらずっと立ち話していたところだが、昨日会ったアパートの一階の画家、マルク・デュランがアーチストを紹介したいと言ってるよ。というので待ち合わせに向かった。何しろ小さい漁港なので迷う暇もなく行けてしまう。

セットの町がアーチストのために無料で貸してくれている元中学校は1教室に1アトリエ。南国なので天井が高い。4mはあるだろう。そこで3人のアール・ブリュットのアーチストが待っていてくれた。

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皿を割る

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絵の上に張り付ける

ニノは古い板戸に車に使うペンキでがんがん絵を描いている。板に金具が付いていたら儲け物で、利用して絵の中に入れる、夫婦喧嘩の多い家に行って割れた皿をもらってきては気に入った絵柄のところを張りつける。リノリウム版画や鉛の人形も作る。

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ステファンの潜水艦

ステファンとアルドの兄弟は大人になるのを忘れたおじさん達でステファンは潜水艦を、アルドは生まれ育った町、セットの過去、現在、未来の神話を絵にしている。3人兄弟でもう一人妹がいる、ということだが彼女も米粒のように小さい人物を作っている3人そろってミニアチュールの世界に入り込んでいる。「私たちのお父さんは気合いの入ったヒッピーで、海岸にテントを張って家族で暮らしていたんだよ。あんまり小さい空間に住んでいたから、それぞれ小さいもので遊ぶくせがついたんだよ。」

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子供の笑顔で迎えてくれたアルドさん

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神話がぎっしり書いてある

新鮮な魚と海岸に太陽。無農薬野菜とアールブリュット。セットの町はアーチストに篤く、心の広い町と見た。

今回の週末で出会ったり、気になったりしたアーチスト

セットで

 Curro Gonzalez
 Pilar Albarracin 女性とアンダルシア社会
 Israel Galvan ダンサー
 Bernard Belluc なんでもコレクター
 David Smith アメリカ人彫刻家

マルセイユで

 Pierre Benoit Bounakoff
 Nan Goldin
 Astrid Kruse Jensen
 Djamel Tatah
 Vladimir Velickouk
 Franz Wilhelm Seiwert
 Leszec Skurski
 Robert Longo
 George Segal
 Richard Gessner
 Jacques Monory
 Marc Desgrandchamps
 

潮田 バルー あつ子
アツコ・バルー
Atsuko Barouh

ラミュゼ主宰 / 通訳・翻訳家


ラミュゼ主宰。パリ第五大学人類学科卒業。フランスのインディレーベル『SARAVAH(サラヴァ)』の運営に1988年より関わる。2002年『L'amusée(ラミュゼ)』設立。滞在型イベントハウス『ラ・ケヤキ』(2003年)、ライブハウス『サラヴァ東京』(2011年)につづき、アートスペース『アツコバルー arts drinks talk』(2013年)をオープン。渋谷を拠点に文化の交流と発信に情熱を傾けています。

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