2013年9月29日 更新

「ヴェニスに死す」かと思ったビエンナーレ

私事だが、4日間の滞在で3日半をビールス性胃腸炎にやられ、熱と腹痛に苦しめられたながらアートを見る羽目になった。
学生時代に見たヴィスコンティの映画では老境の大作曲、マーラーがヴェニスで一人避暑に来ている、そこでこともあろうか同じホテルに宿泊中の15歳くらいの少年に一目惚れしてしまう。悶悶と苦しんだ末、何をとちくるったか床屋で白髪を黒く染めてもらう、少年の関心を引こうとむなしい努力。せっかく若作りして少年のそばのデッキチェアーに座るが、熱中病か脳溢血かで意識を失う、動かぬ老人の額や首筋に髪染めの黒い染料が汗に溶けてだらだら流れる。黒い汁が呪いのように、まるでホラー映画。

実は私も、赤紫色に髪染めをしたばかり、滴り落ちる汗がなぜかワイン色でドキッとする。これじゃまるでマーラーではないですか。。こんなところで死んでなるものか、第一、美少年はどこだ? 日陰のないサンマルコからビエンナーレ会場までトボトボ歩くこと30分(何しろ腹痛なものゆっくりしか歩けない)、赤い汗を呪いながら、熱中症で頭はくらくら。でもここで尻尾をまいて帰ってなるものか、異常に高いのヴェニスのホテルも予約したし、とにかくビエンナーレなるものを見に行きたいのだ。

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ロマンチックなホテルの玄関、でも90度振り返ると渋谷の駅前のような人の波


なんでもあり、の今年


今年のテーマは百科事典。ディドロが18世紀に世界中のあらゆるものを集めて本にまとめてやろう、と世界初の百科事典を作ったその精神を歌ったのか、1955年にこれを始めた人が美術の百科事典をというビジョンがあったらしい。現代の人から100年前の人、国も傾向も様々、何でもあり、ということなのであろうか、結果としてセルフトート、独学の人のぶっ飛んだ絵が次々と展開され楽しいこと。しかしアウトサイダーというわけでもない、精神分析で有名なユング博士の描いた絵はその細かさと形や色のセンス、テーマの不思議さで群を抜いていた。展示会場の入り口に堂々、今年のトーンを決定すべく。レッドブックがガラスケースの中に横綱みたいに君臨していた。これは厚みが30㎝位の赤い革表紙の画帳。ユングの16年間にわたる手書きの日記帳、さまざまな理由から50年もスイスの銀行の金庫に保管されたいたのが最近やっと世に出たという代物。数十枚の挿絵とカリグラフィーが入っている。彼自身の思想のコアな部分と自分や患者の妄想を絵に描いたのだという。


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それにしても驚くほど精緻に描かれた妄想の数、この人はアーチストでもあったのね。いつか日本でもユングの展覧会を開いていただきたいものだ。

こちらはセネガルに1935年に生まれた現代作家、Papa Ibra Tall、奇麗な色彩を駆使した装飾的、幻想的な絵もあったがこういうのに私は惹きつけられた。

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ボールペンで描きまくる。ほとんど真っ黒になりまで描いてますね。

下のグロい絵は1980年(若い!)生まれの Jakub Julian。会場にはこのシリーズの絵ばかりでしたが後でネット検索したらかなり面白いことをしているので要チェック。

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ルーマニアの画家、Stefan Bertalan は1930年生まれでルーマニアのネオアヴァンギャルドグループ111の発起人であった。そして Sigma のメンバーであったという。なになに私は全く知りません。こういう素晴らしい人を発見させてくれる喜びを与えてもらいました。いつかゆっくりルーマニアのネオアヴァンギャルドの作家など調べてみたいです。

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幾何学的なデッサンとアートが一体化しています。
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トルコ人のYuksel Aslan (1935年生まれ)は「反カテゴリー」をテーマに60年絵画と文章を綴っている、シュールレアリズムの作家です。(あ。ここでカテゴリーに入ってしまった。) 解説書ではやっぱりカテゴリーにいれられていますね。こういうのはホント作品を規定してしまうので作家としては腹が立つものです。


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でもカテゴリーに反対している、というカテゴリーにも入っていますし、矛盾をはらんでいますね


下は(やっと)日本語でもネットに名前が載っているフリードリヒ・シュレーダー・ゾンネンシュターン(1882年ドイツ生まれ)、精神病院にも入っていたようで、アウトサイダー作家(またカテゴリーか)色鉛筆で描いている。

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作家の写真、生きていらしたらお会いしたかった見るからにアウトサイダー(良い意味で言ってます)

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中国の女性作家、Guo Fengui (1942-2010) は体が弱かったため気功をずっとやっているうちに精神世界と肉体の関係を深めていった。と言う。文革真っ只中の世代でどのように制作し続けたのか興味ある所だし、彼女の作品は売ろうとか、絶対考えていなかったものだと直感しました。


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女性作家、Gata Bratescu(1962年ルーマニア生まれ)はコンセプチュアリズム運動にかかわった人らしい。今回布と紙の作品が出ていますがこの方もネット検索するとインスタレーションから写真から実験的なことをたくさんしています。侮るべからずルーマニアンアート。

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Anna Zemankova はチェコ人の女性(1908-1986)不幸な生い立ちで50歳から作品を作りだした。アウトサイダーアート

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もう一人今度は若い女性作家、中国の Lin Xue 1968年生まれ。わざと選んでいるわけではなく女性が多い。
気の遠くなるような細かい線で描かれています。6月にアツコバルーで初展示をした志賀風夏さんの画風とよく似ています

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まだまだ紹介したい作家はたくさんいます。

今回で面白かった点は紙作品がすごく多かったこと。
女性作家が多かったこと、そして西欧の中央にいない、いわば僻地の人たち、美術史の文脈の欄外にいる人たちが多かった。
最後に流行に関係ない人ばかりであった。

つまりこの4点を総合すると今まで見捨てられていた作家たちで面白い人たちを集めてきた感があります。

価値の多様化と叫ばれて久しいですがやはりこういう作家達に出会うのは並大抵の努力ではできません。それを今回、おなか痛くなりながらも一度に発見できたのは素晴らしい幸福でした。


最後にヴェネチアの街で出会ったクールな笑顔を送ります
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潮田 バルー あつ子
アツコ・バルー
Atsuko Barouh

ラミュゼ主宰 / 通訳・翻訳家


ラミュゼ主宰。パリ第五大学人類学科卒業。フランスのインディレーベル『SARAVAH(サラヴァ)』の運営に1988年より関わる。2002年『L'amusée(ラミュゼ)』設立。滞在型イベントハウス『ラ・ケヤキ』(2003年)、ライブハウス『サラヴァ東京』(2011年)につづき、アートスペース『アツコバルー arts drinks talk』(2013年)をオープン。渋谷を拠点に文化の交流と発信に情熱を傾けています。

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