2013年9月 2日 更新

軍港、ロッシュフォールの不確実フェスティバル

Rochefort en accord
2013年8月29日から31日。

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フランスの大西洋岸、ロッシュフォールは17世紀ルイ13世の海軍の造船所で、基地であった。何しろ少し南にはラロッシェルの港。ここから新世界に向かってメイフラワー号が出向していった。少し北のナント市は5世紀もの間、アフリカから拉致されてきた奴隷たちの荷分けの本拠地だったし、とにかくフランスが世界の富を集めくるっていた頃に栄えた町、今では小さな観光の街だが、建築はその時代の栄華を思わせる豪華な作りである。

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ルイ13世の海軍宿舎、屋根の長さが300mはある。


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こんな舟を作って世界に出て行った

そんな街で9年目になる音楽フェスは権威的な建物とは反対にとてもユニークである。毎年テーマを決めて(今年はジム・モリソン)17-18人のミュージシャンや歌手が現地でセッションしてライブを作っていく。まさにアーチストインプログレス。火曜日に全員集合、金曜日から3日間のライブステージをじゃんじゃん作っていかなければいけない。
当然そういう柔軟な音楽つくりのできる人たち、というとまずジャズマン、ブルース、そしてロックやフォークだが娘のマイア・バルーやマダガスカルの歌手ミケアとアルゼンチンの双子姉妹のように変わり種のワールド系アーチストも今回参加した。

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アルゼンチンの双子姉妹、Caronniシスターズとクラリネット奏者Fabrice Barre

3日間で12個のライブがある。ライブごとに2つから3つのグループ、つまり約30個のショーを3日間の間18人で作らないといけない。
こんなクレージーな挑戦をやっているフェスティバルは初めて見た。お客さんのほうも何が出てくるか一切わからずに聞きに来る。ほとんどのセッションは10分前に、「バイオリンやっぱりほしい」とか言われてレストランで食べているミュージシャンが呼び出されそのままステージ上で、口頭でこうしてこうして。うんうん、じゃあ、はい。という感じで本番が始まる。時にはドアーズのナンバーをアレンジしたもの時には一人のミュージシャンのオリジナル。エンジニアだってサウンドチェックしている時間なんてない。マイクを用意して、はい。ライブの音を聞きながらサウンドチェック。それでも何とかなってしまうのがすごい。


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町のモータークラブもクラシックカーを貸してくれて、アーチストは町をパレード集客に一役


フェスティバルの会場といわず街のブティックといわずフェスティバルのシンボルマークピンクのトンボと詩が書かれている。これは街の詩作クラブと演劇クラブが共同でやっている。ジムモリソンとモリソンの歌詞に触発された創作詩をエンジェルと呼ばれる白いドレスの若い女性たち(役者)がお客さんにささやいて回る。このようにして市民をたくさん巻き込んでいくのであるな。ふむふむ。

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ライブの始まりを待つお客さんの耳に詩を囁く演劇クラブの女子たち、どんな詩なのかな、おじさま、なんかくすぐったそうでした


お金の出どころは地方、県、そして町。税金でほとんどまかなってしまう。は~っ、うらやましい。企画のほうは街とNPO,ボランティアなど約60人が通年かかって準備している。市民たちで手作りで形を作りお役所が全面的に応援する。市民にコンセプトを説明して面白さを共有する努力を9年間やってきた。商店街や音楽学校なども協力してる。フランスの津々浦々にあるコンセルバトワールといわれる公立の(これも国のお金、安い授業料で子供も大人も音楽が習える)施設を借りてリハーサルルーム、ライブ会場、スタッフの食堂に使っている。しかし、それも集客が命、税金の無駄使い、と議会で吊るし上げをくわないためにみんな必死で集客する。今までは何とか続けられた、来年が10年で節目だそうだ。集客を2倍にするのが目的だが、このコンセプトを守りながらどうやって客を増やすか、人気歌手に頼らずにやるのは並大抵なことではない。

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イタリア式の美しい劇場でも、不確実かつ予測不可能なライブが起こる


このフェステイバルで一番大変なのもアーチストだし、一番得をしているのもアーチストだ。普段だったら、例えば、ああここにバイオリンが欲しいとか、チェロが、と思っても探してきて交渉して一緒にやってもらうまで大変な手間と時間がかかる。ここでは19人もいれば、かなりの楽器がそろう、腕のほうは皆こんなところに参加するのだから猛者がそろっている。楽譜なして一度聞いてもらえばすぐ入ってこられる、いろんな音の実験もできちゃう。そしてスリルを分かち合って面白がってくれるお客さんもいる。
プロデューサーはパスカルという名の女性、今年から彼女が請け負うことになりぐっと女性アーチストとワールドのミュージシャンが増えて多様性が出たという。それまでは男性中心でブルースが多かったという。


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町の広場でも市場の帰りの市民に音楽のサービス。

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フィナーレで全員ご挨拶。
3日間で30個のライブをこなした後の全員の満足度100%
お客さんも12時30分までたっぷり天然100%の音楽を堪能した。この後ボランティアスタッフ、参加者、音楽学校の若者たちで大打ち上げ大会、ジャムセッションが朝の4時まで、みんな踊りまくり演奏しまくりまるで学園祭も負ける大騒ぎ。こんな楽しかった打ち上げはない。

私がサラヴァ東京で小さな規模だかさまざまなジャンルを混ぜたり、誰でも参加できるショーケースを開いたりしているのとまったく同じコンセプトである。お客さんも今夜はだれが出るから、と来るのではなくて誰が出るかわからないけれどいつも何かが起こる場所だから、と信用して来てくれるようになる。そんなハコになるのが私たちの夢で、ゴールである。

潮田 バルー あつ子
アツコ・バルー
Atsuko Barouh

ラミュゼ主宰 / 通訳・翻訳家


ラミュゼ主宰。パリ第五大学人類学科卒業。フランスのインディレーベル『SARAVAH(サラヴァ)』の運営に1988年より関わる。2002年『L'amusée(ラミュゼ)』設立。滞在型イベントハウス『ラ・ケヤキ』(2003年)、ライブハウス『サラヴァ東京』(2011年)につづき、アートスペース『アツコバルー arts drinks talk』(2013年)をオープン。渋谷を拠点に文化の交流と発信に情熱を傾けています。

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